システム開発の見積もりは前提を合意する資料
システム開発の見積もりは、金額だけを提示する作業ではありません。対象、対象外、前提、変更条件、成果物、検収条件を発注者と開発者が確認し、何を根拠に数量と単価を置くかを揃える作業です。
IPA「ソフトウェア開発見積りガイドブック」は、ソフトウェア開発の見積りに関する基本的な考え方、具体的な方法、モデル、ノウハウを紹介し、総論では「合意できる見積り」を扱っています。また「ソフトウェア改良開発見積りガイドブック」は、既存システムがある改良開発の見積りを中心に、前提条件、手法の強み・弱み、精度向上を扱っています。
以下は、小規模なWebシステム改修で見積条件を確認するための記入式テンプレートです。
開発全体の成果物と承認点は「システム開発の工程と成果物」で確認できます。
仮定例: 問い合わせフォームに確認画面を追加する
見積対象を具体化するため、次の条件をすべて仮定として置きます。実案件の仕様、工数、相場、標準値を示すものではありません。
- 既存の問い合わせ入力画面と送信処理は稼働している
- 入力後、送信前に入力内容を確認する画面を追加する
- 確認画面から入力画面へ戻って修正できる
- 既存の入力検証、送信先、保存先は変更しない
- デザインは既存画面の部品と表示規則を利用する
- 本番環境への反映可否はテスト結果を人が確認して判断する
ここで前提が違えば、調査対象、設計、テスト、リリース手順が変わります。見積書では仮定を事実のように扱わず、確認済み、未確認、対象外を分けます。
コピーして使えるWBS見積表
数量・単価・小計は案件ごとに記入します。根拠欄には、実測・過去実績・仮定のどれに基づくかを明記してください。
表は横にスクロールできます
| WBS | 作業内容 | 成果物・完了条件 | 数量 | 単価 | 小計 | 根拠・変更要因 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 調査 | 既存画面、入力検証、状態保持、送信処理、テスト、配布手順を確認する | 影響範囲と未確認事項が記録されている | ||||
| 要件整理 | 表示項目、戻る操作、二重送信防止、エラー時の扱いを合意する | 対象・対象外と受入条件が承認されている | ||||
| 実装 | 確認画面、画面遷移、状態保持、既存送信処理との接続を実装する | コードレビューと静的検査が完了している | ||||
| テスト | 入力、確認、戻る、送信、入力不備、再操作を確認する | 受入条件ごとの結果と未解消事項が記録されている | ||||
| リリース準備 | 反映手順、確認手順、切戻し条件、連絡先を揃える | 実施可否を判断できる資料が承認されている | ||||
| 管理 | 進捗、課題、変更依頼、レビュー、承認を記録する | 変更と判断の履歴が追跡できる |
数量・単価を入れる前の確認
- 数量の単位が人日、時間、件数などのどれかを明記する
- 数量の根拠が過去実績、実測、分解した作業、仮定のどれかを明記する
- 単価に管理、レビュー、間接費、税などの何が含まれるかを明記する
- 未確認事項が判明したときに、どの行を再見積もりするかを決める
- WBSの小計と契約上の請求条件を同じものとして扱わない
一枚で合意する見積条件テンプレート
案件名:
見積版・作成日:
目的:
対象:
-
対象外:
-
前提:
- 確認済み:
- 未確認:
- 仮定:
変更時の再見積条件:
- 対象または対象外が変わった場合:
- 前提・外部仕様が変わった場合:
- 未確認事項の調査結果が仮定と異なった場合:
- 成果物または検収条件が変わった場合:
成果物:
-
検収条件:
- 確認する要件・受入条件:
- 確認環境:
- 確認者:
- 未解消事項の扱い:
数量・単価・金額:
- 参照するWBSの保管場所・版:
- 単価に含むもの・含まないもの:
- 請求条件:
承認:
- 発注側承認者:
- 開発側承認者:
- 承認日:
検収条件には「問題なく動く」ではなく、関連要件、操作、期待結果、確認環境、判定者を書きます。対象外と再見積条件を同じ一枚に置くことで、追加要望と当初範囲の認識違いを確認できます。
概算から再見積もりへつなげる
初期相談では未確認事項が多いため、確定金額のように見せず、概算の前提と精度の限界を明記します。影響調査と要件整理が進んだら、次の順で更新します。
- 未確認事項を確認済みまたは対象外へ移す
- 仮定と調査結果の差を記録する
- WBSの追加・変更・削除を理由とともに残す
- 成果物と検収条件を更新する
- 数量、単価、金額を根拠付きで再計算する
- 発注側と開発側の承認を取り直す
リリース後の対応を開発費へ含めるか、月額保守や都度対応へ分けるかは、見積段階で決めます。保守範囲の違いは「月額保守とスポット対応の違い」を参照してください。業務改善のPoCから本開発へ進む場合は「中小企業DXの業務選定と評価」の測定条件と継続判断も見積前提に引き継ぎます。
参照元
確認日: 2026年8月27日
- IPA「SEC BOOKS:ソフトウェア開発見積りガイドブック」(2006年4月25日発行。IPAアーカイブ掲載資料であり、2026年8月27日時点で事業終了・著作権移転の注記も確認)
- IPA「SEC BOOKS:ソフトウェア改良開発見積りガイドブック」(2007年10月25日発行。既存システムがある場合の改良開発見積りを扱う)